小林傳司「トランス・サイエンスの時代―科学技術と社会をつなぐ」
研究をする元気がなくて,今週末は積読を読みすすめることに...
トランス・サイエンスの時代―科学技術と社会をつなぐ (NTT出版ライブラリーレゾナント)
- 作者: 小林傳司
- 出版社/メーカー: NTT出版
- 発売日: 2007/06/01
- メディア: 単行本
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科学の技術の発展とともに,科学技術と社会がどう関わって(関わってこなかった)のかについての話から始まり,科学技術が社会に深く入り込んでいる現代において,科学技術だけでは解答をすることができない課題について,科学工学と市民はどのように関わっていくべきなのかについての本です.
学部一年のときに「科学技術社会論」の授業を受けて,初めて科学と社会にあり方について研究する学問があることを知りました.その時はちゃんと受けていなくて,そこまで授業に積極的に参加していなかったのですが,いつか科学技術コミュニケーションについての授業をもう一度受けたいなと思っています(そういうことを,修論がある修士2年の今学期に思い出して,授業を取ろうと思ったのですが,さすがに今学期は厳しい...ということで本を読むことにしました)
せっかく読んだので,読んで頭に残った部分を忘れないうちにメモ.
ただしこの本は2007年出版なので,原発事故(2011)については触れられていません.2011年以降に出版されていたらどのような内容になっていたのでしょうか.気になります.
- 各議題に対する人々の関わり方
「周辺的ルート処理」: 多くの人が支持(しているように見える)意見を支持.あの人がこう言っているから,という基準での支持.関心を持たないトピックに対してはこの手短な情報源からのみ当たって判断する方法を多くの人はとる
「中心ルート的処理」:研究者タイプ.情報を十分に集めたうえで判断する方法.有限時間を考慮すると,こちらの処理を行うことは,研究対象でもない限り,現実的ではない.
自身が専門ではない事柄に対して,市民がとる対応はほぼ前者.
- 現在はトランス・サイエンスの時代
トランスサイエンス
科学技術が社会に深く関わるようになった結果,科学技術だけでは解を出せない新たな問題が発生している.
科学的問いを超えた判断が必要になっている.(遺伝子組み換え問題,原発問題など)
以前は科学は中立であり,科学を使う政策が科学を正しく使うか,悪く使うかの「科学の善用・悪用論」だった.トランスサイエンスの時代には科学は絶対的に中立ではない.科学で発生する問題も必ずしも科学で解決すべき問題ではない.モラトリアム的解(その科学技術を採用しない)という判断も含めた議論が必要になっている.
- 啓蒙としての科学技術コミュニケーションから双方向の科学技術コミュニケーションの時代へ
以前の科学技術コミュニケーション: 科学者が市民に対して知識を「啓蒙」する欠如モデルだった.
市民(社会)が科学技術に対して思っていることについて科学は無知だった.科学技術だけでは解が出せないトピックについては市民参加型の科学技術コミュニケーションが重要になってくる(etc. コンセンサス会議)
- 科学の不十分さと工学の現実での不確実性.
可能性を評価することは現実的に難しい問題がある.(etc. おこる確率のゼロとはいえない原発での重大事故の可能性の評価は難しい))
通常の製品であればリスクとベネフィットを鑑みて,安全性と確保する余裕を持った設計にするなどの解を選ぶ.
しかし,原発などのおこる可能性の低いが,おこったときの被害が甚大であるような事故の可能性の評価が非常に難しい.科学そのものでは答えが出せない.
- 政府の「科学技術基本計画」
ここにも科学技術コミュニケーションが重要であることが書かれている.
科学技術的には答えが出せない問いに対して,専門家が行うべきことは, 「科学が判断できること」と「トランスサイエンス(科学を超越している部分)」の線引きを示すこと
ポスト・ノーマルサイエンス:専門家の判断に委任することが問題解決に必ずしもつながらない領域
例えば,原子力発電,環境問題,遺伝子組み換え作物をめぐる問題など(= トランスサイエンスの領域) 科学領域だけでは解決しない問題.システムの不確実性が高い事象について発生する.
専門家でも議論が割れる事象について,どのように判断を下すべきなのか
- コンセンサス会議
科学の立場で明確に解答を出せない領域の判断を科学者にだけ任せるのは???? ⇒パブリックを巻き込んだ公共空間の必要性
- 必要なのはリスクコミュニケーションではない
科学で答えが出せないトピック(etc. 遺伝子組み換えの利用)について,重要になるのは,リスクコミュニケーション(安全性についての議論)ではなく,その技術が社会・人々の生き方に与える影響についての議論.
科学技術のシビリアンコントロール
STS ( science, technology and society) 分野
トランスサイエンスの時代には,科学で答えが出せない問題に対しては,科学工学者だけが取り組むのではなく,人文社会学と理工系研究者の対話の促進が必要
科学はその可能性とともんい限界も語る必要がある.
↓原発後の筆者の講演
行動経済学会第五回大会
パネルディスカッション「原発事故と行動経済学」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbef/4/0/4_0_20/_pdf/-char/ja
科学的な政策決定を行う官僚になるようなお友達には,ぜひこの分野について頭に入れておいてほしいなぁって思いました.